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紋切型辞典

2009-03-07

今日も今日とて習作三昧。これから踏み出す無意識の果て。

00:00 2009-03-07 - 紋切型辞典 を含むブックマーク

高校2年生だった俺はこのままずっとガリガリに勉強していればいつかはこのグズグズの泥沼から抜け出せると思っていた。「アイツマジキモクネ?」「チョーウゼー」「アヤナミガネアヤナミガネ…」「クーキヨメヨー」泥沼の名前は、ガッコウ。いいだろう今日だって俺は戦ってやるよ。戦って俺はここから逃げ出してやるよ。気分はもう、勉強。俺って超優等生。お前らとは違うんだ。俺にはここから逃げる権利がある。そう思っていた。彼女と出会うまでは。

■◆■

高校2年生だった俺は用水路に沿って緩やかに湾曲する通学路を一人帰っている。なんだろ、今の俺、チョウカッコヨクネ?眉間に皺を寄せて上手いこと影を伸ばすんだ。すげーいい。すげーいい。2時間前の俺見てる?シゲハルに「お前ホント使えねーなー」って言われた2時間前の俺、見てる?ほんとの俺ってこんなかっこよくなれんのよ。やれやれ、って言ってみたい。くほほ。「やれやれ」。言っちゃった。すげーいい。くほっ。くほほほほ。ニヤけちゃだめだね、くほほ、と思いながら見つけたヤバメのJK。それが彼女。ヤバイ。メチャ小さい。

こういう時、チョウカッコイイ俺ならどうする?「声をかける」オーケー。当然だ。困ってるレディーには声をかける。それが物語のハジマリ。僕を異世界へと連れてってくれる未来への切符。そのためには最初が肝心だ。

「何してるんだ?こんなところで」

返事はない。(タダノシカ…)

「それ、うちの高校の制服だろ?帰り道に気分でも悪くなったのか?」

返事はない。これはもしかしてチャンスなんじゃないだろうか。仕方なく俺もかがみ込む。いつのまにか半勃ち状態。俺も息子も中腰状態。ちょっと腰をくねらせて位置を補正。

「おい……大丈夫か?救急車とか呼んだほうがいいのか?」

いいかな。ここまで来たらもうやるしかない。やるしかない。むしろやらない方が失礼ってもんだろう。仕方ないだろう。俺は悪くない。そして俺が手を伸ばしたその瞬間。

「……んじる?」

「え?」

彼女は顔を上げ、呟くように言う。

「あなたは運命って、信じる?」

俺が一生忘れることができないのは、その、風を切る音。彼女のしなやかでどこまでも黒い髪が剃刀のようにこの世界を切り裂く音。そして息を吸い込む、ちいさなちいさな音。俺と彼女の呼吸が一瞬のリズムを創りだし、そして消える。かすかな声の震えだけが響き、残る。

「もしかして、お前、泣いてたのか?」

2009-03-06

今日も今日とて習作三昧。美少女が出てこなきゃラノベじゃない!

22:29 2009-03-06 - 紋切型辞典 を含むブックマーク

俺はそのとき高校2年生だった。こうして勉強していればいつかはこのぐずぐずの泥沼から抜け出せると思っていた。それ以降のことなんて考えちゃいなかった。俺がここから抜け出す方法はそれしかなかったし、俺が周りの人間に対して頭一つ抜けられるのはたった一つこの方法しかなかったのだから。どうしてみんなここから抜け出そうと思わないのか?俺はみんなとは違うんだと思っていた。結局あの日あの時に彼女と出会わなければ俺はこの街の外へ逃げ出せていたのかもしれない。きっと逃げ出せていたのだと思う。俺は結局逃げ出さなかった。逃げ出せなかった。今日はそのことを話そう。

■◆■

俺はそのとき高校2年生だった。夕日はもう落ちた、帰り道。用水路に沿ってのびる薄暗い道には人影もなく、俺はその状況に酔っていたのだった。感傷的な気分を無理矢理つくりだし無理矢理に浸っていた。皮膚がうちがわに後退してすっきりとしたガラスのような何かにすげ替えることのできる時間。そして、道の途中にうずくまっている小さな身体。それが彼女だった。

こんな時間に道ばたにうずくまっているようなのがロクな奴じゃないってことくらいは分かってる、いつもの自分なら素通りしてしまうところだ。でも、そのときの俺は、ちょっとだけ酔っていたんだ。そう、ちょっとだけ。

「何してるんだ?こんなところで」

返事はない。

「それ、うちの高校の制服だろ?帰り道に気分でも悪くなったのか?」

やはり返事はない。仕方なく俺もかがみ込む。

「おい……大丈夫か?救急車とか呼んだほうがいいのか?」

彼女の肩に触れようかと逡巡しながら。

「おーい、聞こえるかー?」

俺が手を伸ばしたその瞬間だった。

「……んじる?」

「え?」

彼女は顔を上げ、呟くように言う。

「あなたは運命って、信じる?」

目の前にいたのは、一言でいえば、完璧な、美少女だった。紫色に染まった空に映えるのはその唇。震えているのは、寒さのせいだろうか。冷気にあてられた白い肌は、頬のまわりだけうっすらと紅く染まっている。下睫毛のマスカラが滲んでいるのは

「もしかして、お前、泣いてたのか?」

2009-02-20

[][][][] 21:09 2009-02-20 - 紋切型辞典 を含むブックマーク

おれは阪急桂駅西口のバス停に到着する。秋刀魚をテーブルの上に置きっぱなしにしてしまってる、冷蔵庫に入れておかなければ悪くなってしまうんじゃないだろうか。バスが唸りをあげて発進する、花崎氏の苦手な音である。「桂イノベーションパーク前から……」いつもの花崎氏ならファミリーマートの前を通ってエスカレーターで駅に入るのだが、今日は階段をまっすぐ上ってやるのだ、西3系統のバスを待つ山崎真子は膝をカクカクさせながら階段を上る男を見つめる、財布を忘れていないだろうな、花崎氏はズボンのポケットをまさぐる、あったあった、石原宏明はコンコースをバス停へと抜ける途中でその右肩を見知らぬ男にぶつけてしまう、こんな時でも言葉一つ交わさないってのはあれだな現代社会の冷たさってやつだな、石原宏明は振り向き男を睨みつける、花崎氏は振り向かず歩き続ける。俺にはなんだってできる俺にはなんだってできる、今からでも遅くはないのだ。

ピッ。っと鳴ったのは改札機である。1ヶ月ほど前に花崎氏は定期券ICカード型のそれに替えたのだが、それ以来改札を通り過ぎるたびに黒くじゃりじゃりとした不安が脳裏を過ぎる。これはずいぶん昔にはじめて自動改札を通ったときの気分そのまんまだなと苦笑したのは3日前のこと。今日の花崎氏には関係のないこと。財布をポケットに入れると、おやおや、彼の頭は少しずつ冷めてきたようだ。

2009-02-12

[][] 21:53 2009-02-12 - 紋切型辞典 を含むブックマーク

花崎氏が帰宅すると家の中はまったく変わった様子もなく、ただ炊飯器が湯気を噴いているということだけが彼に何か勇気のようなものを与えたのであった。水は蒸気への相転移の際に気化熱を奪う、おれは相転移する。ほんとうは相転移がなんだってこともわかっちゃいない、確かおれは大学の授業で自由エネルギー云々といったところで諦めたんだったっけか。女房を固定しておれだけ動かしてやろうじゃないか。花崎氏は秋刀魚をテーブルの上に置き引きかえす。おれはずいぶん久しぶりに自分の意志というものを感じる、女房へのプロポーズの場面が一瞬蘇る。なんのことはない、成り行きだったんだ。もう一度ウォーキングシューズを履き玄関を抜ける。女子中学生の声は聞こえない。おれのなかには響かない。花崎氏は歩いた。

15分後、阪急桂駅

2009-02-08

[][][][][] 12:33 2009-02-08 - 紋切型辞典 を含むブックマーク

秋刀魚の内臓は花崎正氏の大好物である。朝食に秋刀魚が出たときは必ず二人ぶんをきっちりと平らげてしまう。自分のための内臓と妻のための内臓である。花崎氏はあのざらつきが好きなのだと言って憚らない。今日の朝食も秋刀魚だ。いつだったか「秋刀魚にはDHAが豊富で頭に良いんだって」と娘が言っていたのを思い出しながら米を量る。いつも「焼き魚の焦げの部分には発癌性があるのよ」と妻が言っているのを思い出しながら米を研ぐ。そろそろ部屋が暖まってきたようで、窓ガラスから伝わる冷気が心地よくもある。日曜の朝食をつくるのは花崎氏の仕事なのだ。彼は炊飯器のスイッチを入れる。

――さて、肝心の秋刀魚を買いに行かなくちゃな。

元気よく声に出してみたはいいが、どうも嘘くさいもんだな。ダイニングキッチンの外へ出ると、冷気が首の回りから背筋の奥まで入り込む。コートを羽織りウォーキングシューズを履くと、外には朝日と言うにはすこし高すぎる太陽。近くの中学校からは朝練の声が聞こえる。真里が中学生だったころと比べると最近の子はずいぶん大人びているし、制服を着ていなかったらすれ違ってもそれと気づかないんだろう。いや、でも。中学生だった真里がめずらしく友達を連れてきた時には、花崎氏はやはりその雰囲気に驚かされたのだし、いつまでも幼いままの真里が少しばかり心配さえしたのだった。高校を卒業し親元を離れてしまった今となってはむしろそのままでいて欲しいと思うのだが、それは親の身勝手というものなんだろうと結局自分をたしなめる。

物集女街道と山陰街道との交差点を左へ曲がる。ダウン症の青年がバス停に佇んでいる。青年のことは考えない。ポストは今日も赤い。京都500、「さ」の1467。5958。3264。1268。3284。3×2+8-4で10か。日が翳り、頬に冬の風が沁みるが、それも一瞬のこと。花崎氏はスーパーに到着する。