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紋切型辞典

2009-02-08

[][][][][] 12:33 2009-02-08 - 紋切型辞典 を含むブックマーク

秋刀魚の内臓は花崎正氏の大好物である。朝食に秋刀魚が出たときは必ず二人ぶんをきっちりと平らげてしまう。自分のための内臓と妻のための内臓である。花崎氏はあのざらつきが好きなのだと言って憚らない。今日の朝食も秋刀魚だ。いつだったか「秋刀魚にはDHAが豊富で頭に良いんだって」と娘が言っていたのを思い出しながら米を量る。いつも「焼き魚の焦げの部分には発癌性があるのよ」と妻が言っているのを思い出しながら米を研ぐ。そろそろ部屋が暖まってきたようで、窓ガラスから伝わる冷気が心地よくもある。日曜の朝食をつくるのは花崎氏の仕事なのだ。彼は炊飯器のスイッチを入れる。

――さて、肝心の秋刀魚を買いに行かなくちゃな。

元気よく声に出してみたはいいが、どうも嘘くさいもんだな。ダイニングキッチンの外へ出ると、冷気が首の回りから背筋の奥まで入り込む。コートを羽織りウォーキングシューズを履くと、外には朝日と言うにはすこし高すぎる太陽。近くの中学校からは朝練の声が聞こえる。真里が中学生だったころと比べると最近の子はずいぶん大人びているし、制服を着ていなかったらすれ違ってもそれと気づかないんだろう。いや、でも。中学生だった真里がめずらしく友達を連れてきた時には、花崎氏はやはりその雰囲気に驚かされたのだし、いつまでも幼いままの真里が少しばかり心配さえしたのだった。高校を卒業し親元を離れてしまった今となってはむしろそのままでいて欲しいと思うのだが、それは親の身勝手というものなんだろうと結局自分をたしなめる。

物集女街道と山陰街道との交差点を左へ曲がる。ダウン症の青年がバス停に佇んでいる。青年のことは考えない。ポストは今日も赤い。京都500、「さ」の1467。5958。3264。1268。3284。3×2+8-4で10か。日が翳り、頬に冬の風が沁みるが、それも一瞬のこと。花崎氏はスーパーに到着する。